CAH(先天性副腎過形成)とは?

CAHとは?

CAH(先天性副腎過形成、Congenital Adrenal Hyperplasia)とは副腎皮質で作られるステロイドホルモンに影響を与えるいくつかの副腎皮質酵素欠損症のグループを総称したものです。 その中でもっとも頻度が多いものが21水酸化酵素欠損症 (21-OHD)で, 症状は中等度を示すものから重度までと幅があります。 重度の症状を示すものは 古典型 CAHと呼ばれており、新生児期から乳児早期に症状を呈してきます。古典型CAHよりも症状が軽い非古典型CAH (NCAH)では乳児期から成人期のいずれかの時期において症状を呈します。NCAHは古典型 CAHよりも頻度が多いものです。 幸いなことに、 CAH は内服治療により管理が可能で、適切にケアされれば、この疾患を持つ患者さんたちは他の健康な人とまったく同じように生活することが可能です。

CAH は常染色体劣性遺伝の形式をとります。患者数は男女で性差はありません。 つまりCAHとして生まれた子供の両親のそれぞれが疾患の原因となる遺伝子を保有しているということになります。研究者たちはCAHの原因となるもっとも頻度の多い遺伝子を6番染色体に同定しました。CAHの診断や保因者かどうかの判定にDNA検査が現在可能となっています。

 

これら特定の遺伝子は副腎皮質が 21水酸化酵素を生成するために必要な情報を持っています. この酵素が欠損すると副腎皮質は生きていく上で欠かすことのできないコルチゾールというホルモンを産生することが出来なくなります。

 

コルチゾールとは副腎皮質が産生するステロイドホルモンの一種で以下の役割があります。(1) 身体的および精神的なストレスに対応する(2) 適切なエネルギー供給そして血糖の維持をする。

 

副腎皮質は下垂体により制御されています。

下垂体とは豆粒くらいのサイズのホルモン産生臓器で脳の下部に位置します。下垂体が血流内に十分な量のコルチゾールが存在しないと感知するとACTH (副腎皮質刺激ホルモン、adrenocorticotropic hormone)というホルモンを分泌します。ACTHは副腎を刺激しコルチゾールの産生を高めます。しかしながら、CAHの患者さんたちは十分な量の21水酸化酵素を持っていないため前駆体である17-hydroxyprogesterone (17-OHP)をコルチゾールに変換することが出来ません。

 

結果として、下垂体はコルチゾールの不足を感知し続けるためACTHをより多く産生するようになります。これによって17-OHPが大量に蓄積しアンドロゲン(男性化徴候をもたらすステロイドホルモン) に変換され、アンドロゲンが過剰に産生されることとなります。 コルチゾールの不足は正常な糖代謝やストレス反応を妨げることにもなります。 正常なストレス反応の欠如が副腎ショックを引き起こすこともあります。

 

以上に加えて75%以上の古典型CAHの患者さんではアルドステロンと呼ばれる別の副腎皮質ホルモン産生も低下しており正常な血圧の維持、血中ナトリウムの維持に影響します。このような障害が起こる場合、これを“塩喪失型 CAH” (SW-CAH)と呼びます。 残る25%の十分なアルドステロン産生が出来るタイプの古典型CAHの患者さんは “単純男性型” (SV-CAH)と呼ばれます。

 

非古典型CAHの患者さんでは命に関わることはないものの以下のような症状を呈します。 (1) 思春期早発や小児期での成長の加速 (2) 男女ともに不妊などQOL(生活の質)に関わる他の症状。

 

CAHに属する21水酸化酵素欠損症(21OHD)以外のまれな副腎酵素欠損症には11β-水酸化酵素欠損症(11B-HD) 、17α-水酸化酵素欠損症(17a-HD)、3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ欠損症(3B-HSD)があります。このウェブサイトでは もっとも頻度の多い21-OHDについて 焦点を当てて記載しています。


古典型CAH

古典型CAHは、誕生したあとただちに診断し、時に致死的となる副腎ショックを防がなくてはなりません。新生児マススクリーニングが行われている国や地域では、該当する新生児の家族が、その子にCAHの疑いがあることの通知を医療機関から受け取ることになります。そうなった場合には家族はただちにその子供を医療機関に受診させなければなりません。  男の子であれ女の子であれマススクリーニングでCAHと診断された新生児は副腎ショックを起こす前に十分な治療を開始できるよう、できるだけ早く検査を受ける必要があります。マススクリーニングが行われていない国や地域ではCAHの疑いのある子供は副腎ショックのリスクがあり、特に男の子では外見的に何の兆候も示さないため注意が必要です。

 

女の子の場合、誕生早期から医療的な問題に気付かれるケースが多くなります。というのも、子宮内で高いアンドロゲン濃度に曝露されることにより外性器の形状に変化がある場合があるからです。この場合は結果的に早期に治療を受けられ副腎不全や塩喪失による症状を防ぐことが可能となります。時にCAHの女児が誕生時に男児と性別を誤って診断されることもありますが、生殖に関わる卵巣や子宮などの内性器にはまったく影響はありません。女児の外性器の変化の程度は個人によりさまざまですが、必要と判断されるケースでは専門医による形成手術を受けることが選択できます。

男の子の場合、誕生時には外見的に異常はありません。 そのためCAHの存在に気づかれないまま自宅に帰ることになります。このような場合、マススクリーニングが行われていなければ、生後数週間の間に嘔吐をしたり、命に関わる副腎ショックの症状を呈してきます。

 

このような状況は致死的であることから、日本、および米国のすべての州では古典型CAHに対する新生児マススクリーニングを実施しています。しかしながら、まだ世界にはCAHも含めた包括的なマススクリーニングが行われていない国々があり、我々はこういった国々すべてでマススクリーニングが行われるようになるまで啓蒙活動を続けていかねばなりません。

 

副腎皮質が十分なアルドステロンを産生できないと多量の塩分と水分が尿中に失われてしまい、結果として脱水と血中ナトリウム低下が引き起こされます。かわりに血中のカリウム濃度が高値となることから心臓の不整脈を引き起こし、最悪の場合心停止する可能性もあります。このような赤ちゃんではすぐに適切な治療を受けないと誕生後すぐに非常に具合が悪くなります。古典型CAHのうち25%ではアルドステロンが十分に産生されるため「単純男性型」と呼ばれます。非古典型CAHは命に影響を及ぼすことはありませんが思春期の発来や小児期の成長に影響を及ぼすことがあり、このために男女ともに将来の不妊症やほかのQOLに影響する症状を呈する可能性があります。

非古典型CAH

非古典型(NCAH) (あるいは遅発型) CAH はCAHのバリエーションの中の一つであり、小児期から成人期のいずれかで症状を発症しうるものですが、ただちに命に関わることはありません。 NCAHの症状には幅があり、その症状はほかの別の病気でも呈しうるものであることから、ある症状をもってただちにCAHであると診断することが困難です。 女児の外性器に変化はなく、男児の外見も正常です。症状が誕生早期ではなく遅発性に起こることから  NCAH は遅発型CAH、あるいは 成人発症型CAH、軽症型 CAHと呼ばれることもあります。 非古典型CAHで発症した場合、途中から古典型CAHに進行することはありません。 NCAHは新生児マススクリーニングで発見されることもありますが必ずしも治療を必要としません。家族は症状の発症に注意しなければなりません。小児あるいは成人で症状が出てきたときのみに治療が必要となります。NCAHの患者さんの中には生涯を通じて何の症状も出ないこともありますし、治療が必要となる症状があらわれてくる場合もあります。

NCAHの症状とは?

NCAHの症状は個人によって大きな違いがあります。また、同一の個人であっても症状は重くなったり軽くなったりすることもあります。これらの症状は一生のうちいつ始まってもおかしくなく、小児期の早期に発症することもあります。その症状はしばしば思春期早発と誤診されます(女の子では8歳未満、男の子では9歳未満で思春期が始まる徴候)。この症状は進行性です。つまり、治療がされなければ時間の経過とともに悪化します。

男女ともに以下のような症状を呈します。

  • 陰毛、腋毛の早期の発達
  • 体臭
  • 成長の加速があるが結果的に低身長となる
  • 髪の毛や肌が脂でべとつく
  • 重症のアクネ
  • 気分の変調
  • 不妊

女性の場合、その症状は月経が開始したすぐ後にもっとも顕著となります。その症状は上記に加えて以下のようなものがあります。

  • 初潮の開始が早い
  • 月経不順
  • 髪の毛が細くなる、特に頭頂(男性型の禿の特徴)
  • 顔やあご、上肢の体毛が濃くなる
  • 多のう胞性卵巣(PCOS)

男性のNCAHでは以下の症状が現れる場合があります。

  • 髭が生え始めが早い
  • 陰茎は大きく、比較して精巣は小さい
  • 精子数の減少
  • 低身長

もし上記のような症状がある場合、子どもの場合は特に、内分泌専門の医師を早く受診することが重要です。

 


その他の稀なタイプのCAH

 

 先天性副腎過形成 (CAH) というのは、副腎ステロイドの生合成に関わる酵素の異常を伴う遺伝的な疾患グループを指します。 CAHの患者さんではコルチゾールの生成が低下しているために下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌抑制のフィードバック機構が障害され、結果的にACTH分泌が持続することで副腎皮質を刺激し続けます。 これによって副腎が腫大し過形成となります。誕生早期の副腎不全によって特徴づけられる「古典型CAH」の頻度は15,000人に一人と推定されています(注:米国の場合。日本でも1万~2万出生に対して一名程度。)それに対して非古典型CAHは、症状の発症がより遅く、軽度であるタイプですが、この頻度は100人に一人程度と推定されています(注:米国の場合)。

副腎で生成される3つの重要なホルモンは、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、そして副腎アンドロゲンです。 これらはいずれもそれぞれ別の生合成の経路をたどって生成されます。 しかしながら、この三つの経路は同じ前駆体分子を利用しています。もし一つの酵素がこの三つの経路のどこかを途中でブロックすると、前駆体分子は他の経路に流入するようになります。 この結果、ある経路で特定の生合成に関わる酵素が障害されると、同時に一つあるいは二つの副腎ホルモンの生成が障害され、残りのホルモンの分泌が過剰になることになります。

つまり、CAHの症状の現れ方と治療方法は以下の条件で変わることになります。

1) 副腎ホルモンの三つの生成の経路のどの部分で、酵素の障害があるか

2) 酵素の障害の程度

3) 性腺ホルモンの生成も影響を受けているかどうか

前駆体分子の上昇パターンがCAHの診断に大変有用です。ステロイドの生合成に関わる遺伝子のコーディングも特定されているため、遺伝子検査がCAHの鑑別をするために利用されることもあります。 CYP21A2遺伝子の機能喪失型突然変異がすべてのCAHの90%の原因となっています。 ほかのもっと稀なCAHの原因としてはCYP11B1遺伝子、CYP17A1遺伝子、HSD3B2遺伝子、またはSTAR 遺伝子(リポイドCAH)があります。すべての現在知られているCAHは常染色体劣性遺伝の形式をとります。 酵素の障害が中等度の場合には遺伝子検査の方が生化学的検査より感受性はより良好かもしれません。それに加えて遺伝子検査ではキャリア(保因者)かどうかの判定や遺伝子カウンセリング、ほかの家族の早期診断や治療に結び付けることが可能です。

ほかの稀なタイプのCAHの遺伝的原因

 

 

11β水酸化酵素欠損症

 

CYP11B1遺伝子の機能喪失型突然変異がすべてのCAHの約5~8%の原因となっています(西ヨーロッパおよび米国の場合)。CYP11B1はチトクローム 酵素(P450)である11β水酸化酵素をコードしており、これが糖質コルチコイド生合成経路において11デオキシコルチゾールからコルチゾールへの変換を触媒しています。11β水酸化酵素の障害が糖質コルチコイドの生合成を妨げるために前駆体分子の蓄積が起こり、ミネラルコルチコイドと副腎アンドロゲンが過剰に生成されます。この患者さんはコルチコステロン(糖質コルチコイドの作用を持つ)が存在するために副腎ショックは起こさずにすみます。 しかしながら、デオキシコルチコステロン(弱いミネラルコルチコイドの作用を持つ中間産物)が増えるために高血圧を呈します。副腎アンドロゲンが過剰に生成されることにより出生前および出生後の男性化徴候が女児および男児にも影響を及ぼします。どの程度の症状が出るかについては11β水酸化酵素の活性がどの程度障害されているかによって変わってきます。古典的な11β水酸化酵素欠損症(全体の3分の2を占めます)では女児の外性器の変化と、男女ともに治療されなければ思春期早発を来すことが知られています。ナトリウムの貯留による高血圧も同時に生じてくる可能性があります。非古典型11β水酸化酵素欠損症では副腎アンドロゲンの過剰の傾向をやや認めるのみとなります。

 

 

17α水酸化酵素欠損症

 

 

 CYP17A1遺伝子の機能喪失型突然変異がすべてのCAHの約1%の原因となっています(ただしブラジルでは2番目に多い原因)。 CYP17A1はチロクローム酵素(P-450)である17α水酸化酵素と17,20リアーゼ活性をコードしており、前駆体分子が糖質コルチコイドと副腎アンドロゲンの生合成の経路に流れ込む入口の部分を制御する役割を持っています。つまり、17α水酸化酵素活性は鉱質コルチコイドから糖質コルチコイド生合成の経路への分岐点を制御し 17,20リアーゼ活性は糖質コルチコイドから副腎アンドロゲンの生合成経路へ枝分かれする分岐点を制御します。CYP17A1遺伝子の障害は副腎皮質での糖質コルチコイドと副腎アンドロゲンの合成に影響するとともに性腺でのステロイド合成にも影響します。鉱質コルチコイドの合成は影響されませんが、糖質コルチコイドの生合成経路の入り口をブロックされることでミネラルコルチコイドの前駆体分子(デオキシコルチコステロンやコルチコステロン) の蓄積が起こります。このコルチコステロンの蓄積があるために糖質コルチコイドの活性を示し、コルチゾールが欠けていても患者さんを副腎ショックから守ることになります。 またデオキシコルチコステロンとコルチコステロンの上昇はこれらが弱い鉱質コルチコイドの活性を持つために、17α水酸化酵素欠損症の患者さんでよく見られる高血圧の原因になっていると考えられています。副腎アンドロゲン生成と性腺ステロイド生成の障害により、46XY男性の外性器の女性化や二次的に46XX女性の無月経が起こることがあります。

 

3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ欠損症

 

HSD3B2遺伝子の機能喪失型突然変異がCAHの約1%の原因となっています。HSD3B2遺伝子は3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3β-HSD)という酵素をコードしており、これが鉱質コルチコイドの生合成経路の中でプレグネノロンからプロゲステロンへの変換と17OHプレグネノロンから17OHプレゲステロンへの変換を触媒しています。また3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼはデヒドロエピアンドロステロンからアンドロステンジオンへの変換と性腺における性腺ステロイド合成にも必要です。46XY男性では3β-HSD欠損症はテストステロンの合成が性腺で障害されるために外性器の女性化に関係しています。女性では 3β-HSD欠損症は思春期早発や無月経を呈する可能性がありますし、また末梢組織でのアンドロゲン前駆体からアンドロゲンへの変換が女性の外性器の男性化をもたらす可能性もあります。重症の3β-HSD欠損症では糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの欠乏が塩喪失と原発性の副腎不全を生じます。

 

 

リポイド過形成

 

STAR遺伝子の機能喪失型突然変異が 先天性リポイド副腎過形成(リポイドCAH)の原因となり、CAHのうちわずかを占めるのみですが日本人や韓国人、パレスチナ人ではより多く認められています。STAR codes for the steroid acute regulatory protein, which fulfills a gatekeeper function for all of steroid biosynthesis by catalyzing the transfer of cholesterol from the cytosol into mitochondria, where the initial steps of steroidogenesis take place. Absence of functional StAR protein reduces cholesterol import into mitochondria by a factor of about ten, leading to impaired biosynthesis of all steroids and accumulation of cholesterol lipid droplets in the cytoplasm of affected cells. However, StAR-protein independent cholesterol import may allow for enough steroid synthesis to prevent acute symptoms in the absence of functional StAR protein, and only the gradual accumulation of lipid droplets leads to complete cessation of all steroidogenesis through generalized damage to the affected cells. For this reason, defects in STAR cause damage to steroidogenic target organs such as the adrenals and the gonads only if they are stimulated to produce steroids. This “two hit” model of lipoid CAH explains why 46XY infants with lipoid CAH are born as phenotypic females, while onset of acute primary adrenal insufficiency and salt wasting may not occur until several weeks or even months after birth. The fetal testis is stimulated and thus damaged by absence of functional StAR early in gestation, leading to lack of testosterone and preventing development of male external genitalia. In the adrenals, in contrast, stimulation prior to birth affects primarily the fetal zone; the definitive zone, which postnatally develops into the zona glomerulosa and zona fasciculata, may therefore remain partially functional for several weeks or months after birth in individuals with reduced StAR-protein activity. Similarly, the ovaries in 46XX individuals remain hormonally silent until puberty, when individual ovarian follicles are stimulated and, in individuals with lipoid CAH, thus damaged during each cycle. However, while 46XX individuals with lipoid CAH can spontaneously enter puberty and may undergo menarche, their cycles remain anovulatory because lack of StAR-protein activity prevents the progesterone surge necessary for ovulation. To learn more about the genetics of CAH, please visit out CAH Overview page.